小型真空管ステレオアンプの製作(PCL-86 シングルアンプ)

先日、秋葉原で面白い真空管を見つけ、久しぶりに真空管アンプを作ってみました。
今回はオーディオ用の小型ステレオアンプです。真空管は「PCL86」というMT複合管で、別名は「14GW8」と呼ばれています。つまり「6GW8」のヒーター電圧が14Vバージョンです。

内部構造は、低周波増幅用の3極管と電力増幅用の5極管の複合管です。3極管のμは 100 と利得が高く使いやすく、5極管の方はシングルで4W程度が狙えそうです。構造は3極管と5極管の間にシールドがあり、そのシールドが5極管のカソードに接続されています。

PCL-86 外観

この真空管は「6BM8」と比較されますが内部構造が異なるため、音質も異なり、なかなか良い音を聞かせてくれます。
それにしてもヒーター電圧14Vというのは少し難儀ですが、専用のトランスを見つけて製作しました。ただ、12Vでヒーターを点火しても問題なく使えるようで、汎用のパワートランスでも使用が可能です。

早速、基板を製作してみました。真空管アンプなので本来は空中配線で作るべきですが、基板を作ったほうがバラつきが少なく、簡易に製作できます。
基板は耐圧と性能を考えてガラエポ 1.6mm を使用し、パターンを作ってみました。今回はオーディオ用基板なので性能はもちろんですが、見た目も良くなるように回路パターンを考えて設計しています。部品の取り付けには、すべてオーディオ用の銀ハンダを使用しました。

カソードのケミコンはOSコンを使用して高音質化を図っています。またカップリングのフィルムコンにはメタライズドポリエステルを使用しました。このあたりは音質の好みで、色々と交換すると良いでしょう。容量は 0.047μF?0.1μF / 400V 程度としています。
抵抗はカーボン抵抗が良いでしょう。この辺も好みで交換すると楽しめます。

電力増幅部は3極管接続としています。NFBはオーバーオールでもカソードでも使えるように考えました。
この真空管は出力インピーダンスが高く、出力トランスは 7k:8Ω のものを使用しました。入力ボリュームは 2 連 100kΩ のAカーブです。

シャーシ内部(配線前)
シャーシ内部(配線はまだしていない状態)

次にシャーシ設計ですが、こちらはなるべく小型になるように組みました。デザインも少し考えています(タカチケースを改造)。

PCL-86 アンプ外観1 PCL-86 アンプ外観2

視聴したところ、小型のアンプとは思えないほどに迫力があり、家庭で聞くには十分な出力があります。
音質も良く、CD・MDで視聴した感じでは、とても聴きやすく、BGMとして流すには最適です。特にボーカルが良く感じられます。
非常に小さな出力トランスを使っていますが、音質もパワーも十分でした。

  • 真空管: PCL-86
  • 構成: ステレオ シングルアンプ
  • 出力: 1W+1W 以上
  • 電源電圧: AC100V
  • 消費電流: 1A 以下
  • 出力インピーダンス:
PCL-86 シングルアンプ回路図
PCL-86 シングルアンプ回路図(実験機)

実験機の回路図を掲載しました(定数は変更になることもあります)。
NFBはスピーカー出力からカソードに負帰還をかけ、さらに電力増幅部に局部帰還も入れています。これにより、実用範囲では歪率が 1% 以下になりました。最大出力は約 1.2W 程度です。
バランスが良くなり、音質も以前より聴きやすくなりました。残留ノイズもほとんど聞こえず、ハム音もありません。
まだダンピングファクターの計測はしていませんが、後ほど測定したいと思っています。またNFBをかけたことで、出力インピーダンスも合わせて測定する予定です。

PCL-86 ユニットと基板

基板が出来上がってきたので、早速部品を実装してみました。OSコンの色合いが良いですね。
シルク印刷とレジスト処理を行っていますので、組立は簡単になりました。
回路は好みによって変更も出来るようにしてありますので、色々と楽しめると思います。
……続く。


特性測定

長い間そのままにしていた PCL-86 アンプですが、やっと測定を行いました。
測定にあたり、一部の回路定数と回路構成を変更しています。NFBはカソードタイプとし、各部の定数を見直しました。

・周波数特性

入力:50mV / 出力負荷:8Ω 抵抗
測定器:MAK-6581 オーディオアナライザー(メグロ)

広帯域特性で、フラットな結果が得られました。

PCL-86 周波数特性図
周波数特性図

思ったより広帯域でフラットな数値でした。低域については小型の出力トランスですので、ある程度は仕方のないところです。

・歪率測定

DISTORTION
出力負荷:8Ω 抵抗 / 周波数:1kHz
測定器:MAK-6581 オーディオアナライザー(メグロ)

PCL-86 歪率特性図
歪率特性図

歪率については、小型トランス+シングルアンプという構成を考えれば妥当な値で、音質的には問題ありません。

・GAIN 測定

PCL-86 GAIN特性 8Ω
GAIN 特性(8Ω負荷)

GAIN も特に問題はなく、1W を超えたあたりからクリップを始めます。
試しにエンヤを試聴してみましたが、とても聴きやすく、思ったよりクリアな音でした。
1W もあれば小型スピーカーでも十分な音量が得られますので、小型真空管アンプとしてはなかなか良好な結果と言えるでしょう。


ブルーLEDによるイルミネーション

試聴も終わったので、最後に流行のブルーLEDでイルミネーション風にしてみました。
部屋を少し暗くして見ると、何とも良い雰囲気です。実際には音質に変化はありませんが、雰囲気が変わると、音まで良くなったように感じます。
色々な音楽を聴いてみましたが、やはりエンヤが最高でした。

ブルーLEDでイルミネーションしたPCL-86アンプ

数台分の部品があるので、近いうちに配布する予定です。

2007.04.07 更新